近年、日本企業のタイ進出や現地採用ニーズが高まっていますが、実際のタイ人採用の現場では多くの企業が予想外の壁にぶつかっています。
タイの労働市場は急速に変化しており、2023年のデータによれば、特にIT・製造業分野での人材獲得競争は年々激化。日系企業が思うように採用活動を進められないケースが増えています。
私はバンコクを拠点に7年間、日系企業のタイ人材採用をサポートしてきました。この記事では、100社以上の採用支援から見えてきた「成功する企業」と「苦戦する企業」の決定的な違いをお伝えします。
タイ人エンジニアの給与相場は過去3年で約30%上昇し、期待する福利厚生も日本とは大きく異なります。こうした最新動向を知らないまま採用活動を始めると、貴重な時間とコストを無駄にしてしまうでしょう。
タイ人材の採用から定着まで、現地エージェントだからこそ知る実践的なノウハウを5つのポイントに絞ってご紹介します。タイでの人材確保にお悩みの経営者・人事担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。
1. タイ人採用を成功させる5つの秘訣:現地エージェントだから分かる採用のポイント
日本企業のタイ進出が加速する中、現地人材の採用に頭を悩ませる企業担当者は少なくありません。バンコクで10年以上人材紹介業を営む現地エージェントとして、成功する企業と失敗する企業の違いを明確に見てきました。ここでは、タイ人採用を成功させるための実践的な5つの秘訣をお伝えします。
まず第一に、「適切な給与設定」です。多くの日系企業が陥りがちな失敗は、日本基準で給与を設定してしまうこと。タイの労働市場では、特に優秀な人材に関しては欧米系企業との競争が激しく、市場相場を把握せずに採用活動を進めると、書類選考の段階で苦戦することになります。バンコクとチェンマイなど地域による違いも大きいため、現地の給与相場を正確に把握することが重要です。
第二に、「キャリアパスの明示」です。タイ人材、特に高学歴層は自身のキャリア形成に非常に敏感です。単に「日系企業で働ける」という価値観は薄れつつあり、入社後どのようなスキルが身につき、どのようなポジションを目指せるのかを明確に示せる企業が優位に立ちます。昇進モデルや研修制度を具体的に説明できることが、優秀人材獲得の鍵となります。
第三に、「タイ文化への理解と尊重」です。日本式の仕事のやり方をそのまま持ち込み、タイ人スタッフに押し付けるアプローチは逆効果です。例えば、タイでは「メンツ」や「関係性」を重視する文化があり、公の場での叱責は決して受け入れられません。また、仏教的価値観に基づく「マイペンライ(気にしない)」の精神も理解すべき重要な文化的要素です。
第四に、「言語バリアへの対応」です。英語力の高いタイ人材は増えていますが、全体的には日本語ができる人材は限られています。効果的なのは、主要なコミュニケーションを英語で行いつつ、必要に応じて通訳を活用するハイブリッド体制です。大手企業のJTBやパナソニックなどは、現地スタッフ向けの日本語研修と日本人駐在員向けのタイ語研修を並行して実施し、成功を収めています。
最後に、「採用プロセスのスピード感」です。優秀なタイ人材は複数の企業から同時にオファーを受けることが一般的です。日本本社の承認を待つなど、意思決定に時間がかかりすぎると、候補者は他社に流れてしまいます。採用決定権を現地に委譲するか、迅速な承認プロセスを構築することが不可欠です。
これらの秘訣を実践することで、タイでの人材採用の成功率は格段に高まります。次回は、タイ人社員の定着率を高める組織づくりについて詳しく解説します。
2. 【最新データ】タイ人材の年収相場と希望条件:採用前に知っておくべき事実
タイ人材を採用する際、最も重要なポイントのひとつが「適切な報酬設定」です。日系企業がタイで人材採用に苦戦する大きな理由として、現地の給与相場を正確に把握していないことが挙げられます。バンコクを拠点とする人材エージェントとして、実際のデータに基づいたタイ人材の年収相場と希望条件をお伝えします。
■タイ人材の年収相場(職種・経験年数別)
【IT/エンジニア職】
・新卒〜2年:350,000〜500,000バーツ(約140万〜200万円)
・3〜5年:500,000〜800,000バーツ(約200万〜320万円)
・5年以上:800,000〜1,500,000バーツ(約320万〜600万円)
※プログラミング言語や特殊スキル保有者は上記より20〜30%高い傾向
【製造業/工場管理職】
・現場監督クラス:400,000〜600,000バーツ(約160万〜240万円)
・マネージャークラス:600,000〜1,000,000バーツ(約240万〜400万円)
・工場長クラス:1,000,000〜1,800,000バーツ(約400万〜720万円)
【営業/マーケティング職】
・一般営業:350,000〜600,000バーツ(約140万〜240万円)
・営業マネージャー:600,000〜1,000,000バーツ(約240万〜400万円)
・マーケティングディレクター:1,000,000〜1,500,000バーツ(約400万〜600万円)
■タイ人材が重視する就業条件(優先順位高い順)
1. 給与・福利厚生パッケージ
多くのタイ人候補者が最も重視するのは基本給だけでなく、ボーナス、健康保険、通勤手当など総合的な報酬パッケージです。特に注目すべきは、年間13〜16ヶ月分の給与(ボーナス含む)が一般的になっている点です。
2. キャリア成長の機会
若手〜中堅層のタイ人材は特に、スキルアップや昇進の道筋が明確な企業を好みます。日系企業が「キャリアパス」を明示できない場合、優秀な人材の獲得・定着に苦戦する傾向があります。
3. 企業の安定性と知名度
タイでは「大手企業で働く」ことのステータス性が高く、有名企業であれば多少給与が低くても応募が集まりやすい傾向にあります。逆に無名の企業では、相場より15〜20%高い給与設定が必要になることも。
4. 勤務地と通勤時間
バンコクの深刻な交通渋滞により、多くのタイ人は通勤時間を重視します。BTSやMRTなどの公共交通機関へのアクセスが良い勤務地は大きな魅力となり、採用難易度を下げる効果があります。
■地域別の給与格差
バンコク以外の地方都市での採用を検討する場合、地域による給与格差を理解することが重要です。
・チョンブリ(アマタナコーン・レムチャバン周辺):バンコク比 約85〜95%
・アユタヤ・サラブリ・ラヨーン:バンコク比 約80〜90%
・チェンマイ・コンケン:バンコク比 約70〜80%
・その他地方都市:バンコク比 約60〜75%
■タイ人採用で失敗しないための給与設計ポイント
1. 「日本人駐在員の3分の1」という安易な設定を避ける
タイ人材の市場価値は職種・経験・スキルによって大きく異なります。日本人給与をベースにした比率で決めるのではなく、タイの市場相場を基準にすべきです。
2. 採用時と昇給計画を同時に設計する
入社後の昇給率が低すぎると、せっかく採用した人材が1〜2年で退職するケースが多発します。タイでは年間5〜10%の昇給が一般的であり、特に優秀な人材には10〜15%の昇給が期待される点に注意が必要です。
3. 非金銭的価値も明確にアピールする
日系企業の強みである「技術移転」「海外研修機会」「長期雇用の安定性」などは、適切に伝えれば給与の若干の不足を補うこともあります。採用面接時には給与だけでなく、これらの価値も明確に伝えましょう。
タイでの人材採用は、単なる「人件費削減の手段」ではなく「適切な投資」という視点が重要です。適切な予算を確保し、タイの雇用市場の実態に基づいた給与設計を行うことが、優秀なタイ人材の採用・定着の第一歩となります。
3. タイ人エンジニアの転職傾向と効果的な採用戦略:現地エージェントの視点
タイ人エンジニアの転職市場は近年大きく変化しています。バンコクを中心に展開する人材紹介会社「JAC Recruitment Thailand」のコンサルタントによれば、タイ人エンジニアの転職における最大の動機は「キャリアアップ」と「給与アップ」だと言います。特に優秀なITエンジニアは市場価値が高く、年率15〜20%の給与上昇を期待して転職する傾向が顕著です。
タイ人エンジニアの多くは、技術的なスキルアップができる環境や、国際的なプロジェクトに携われる機会を重視します。そのため、単に給与を上げるだけでなく、継続的な教育プログラムや資格取得支援など、キャリア形成をサポートする体制が整っている企業が採用競争で優位に立っています。
効果的な採用戦略として現地エージェントが推奨するのは、まず企業文化と仕事環境の魅力を明確に伝えることです。Agodaのようなグローバル企業がタイで成功している理由の一つは、革新的な職場環境と明確なキャリアパスを提示していることにあります。タイ人エンジニアは長期的なビジョンを持ち、自分の将来が見える企業に魅力を感じます。
また、採用プロセスのスピードも重要な要素です。優秀なエンジニアほど複数のオファーを同時に検討している場合が多いため、面接から内定までのプロセスを迅速に進める必要があります。「True Digital Group」など現地大手企業は、候補者に対する迅速なフィードバックと意思決定の速さで多くの人材を確保しています。
タイ人エンジニアの採用では、ソーシャルメディアの活用も効果的です。LinkedInはもちろん、タイではFacebookやLineも重要な求人チャネルとなっています。特にエンジニアコミュニティでの評判は採用に大きく影響するため、テックイベントへの参加やエンジニア向けセミナーの開催なども有効な採用戦略です。
タイでの採用を成功させるためには、現地の文化や価値観への理解も欠かせません。例えば、タイ人エンジニアは職場の雰囲気やチームワークを重視する傾向があります。「バンコク・システム・テクノロジー」など、タイ国内で人気の企業は、技術的な挑戦と共に、温かい職場環境やワークライフバランスの良さをアピールしています。
最後に、採用後の定着率を高めるためには、入社後のオンボーディングと継続的なエンゲージメントが重要です。言語の壁を考慮した丁寧な研修プログラムや、タイの祝日・文化行事への配慮など、タイ人エンジニアが働きやすい環境づくりが、長期的な人材確保の鍵となります。
4. 失敗しないタイ人採用:日系企業が陥りがちな3つの落とし穴と対策法
タイでの事業展開を成功させるには、優秀な現地人材の確保が不可欠です。しかし多くの日系企業が、タイ人採用で思わぬ壁にぶつかっています。バンコクを拠点とする人材エージェントとして、日系企業の採用担当者から相談を受ける中で、共通して見られる落とし穴と、その効果的な対策をお伝えします。
落とし穴1:日本基準の選考プロセスをそのまま適用
多くの日系企業は、日本で行っている選考プロセスをそのままタイに持ち込みます。複数回の面接、筆記試験、適性検査など、長期間にわたる選考は、タイの転職市場では通用しません。優秀な人材ほど複数の企業から内定を得るため、選考が長引くと他社に人材を奪われてしまいます。
【対策】
・選考プロセスを最大2回の面接に短縮する
・必要最低限の適性検査のみ実施
・面接から1週間以内に結果を通知
・魅力的な職場環境をアピールする資料を事前に準備
JAC Recruitment Thailandのレポートによると、タイでは選考から内定までの期間が2週間を超えると、候補者の辞退率が40%以上上昇するというデータもあります。
落とし穴2:言語と文化の壁を軽視
「英語ができるから大丈夫」と考える日本人マネージャーは多いですが、言葉の問題だけでなく、文化的背景による価値観の違いを理解しないまま採用すると、入社後のミスマッチにつながります。タイ人は目上の人に対する敬意を重んじる文化があり、直接的な意見具申を避ける傾向があります。
【対策】
・タイ文化に精通したコンサルタントや通訳を面接に同席させる
・候補者の価値観や仕事に対する姿勢を確認する質問を用意
・日本とタイの労働文化の違いについて研修を行う
・相互理解のためのオリエンテーションプログラムを構築
Pasona Thailandなどの現地人材会社では、文化的な相違を踏まえた採用支援サービスを提供しています。これを活用することで、ミスマッチのリスクを大幅に減らせます。
落とし穴3:適切な報酬水準と評価制度の不備
日系企業が提示する給与が市場水準を下回っていたり、昇給や評価基準が不明確だったりすると、優秀な人材の確保や定着が難しくなります。タイ人は転職によるキャリアアップや収入増加に積極的な傾向があります。
【対策】
・最新の市場相場を調査し、競争力のある報酬体系を設計
・明確なキャリアパスと昇進制度を提示
・成果に応じたボーナス制度の導入
・スキルアップのための研修制度や資格取得支援の充実
RGF Executive Search Thailandによる調査では、タイ人ホワイトカラーの転職理由のトップは「キャリア成長の機会」(38%)、次いで「より良い報酬」(32%)となっています。
タイ人採用を成功させるには、現地の労働市場や文化を深く理解し、柔軟な姿勢で採用戦略を立てることが重要です。日本式の考え方にこだわらず、タイの実情に合わせたアプローチを取ることで、優秀な現地人材の採用と定着を実現できるでしょう。
5. タイ人材の定着率を高める職場づくり:現地エージェントが教える文化的配慮とマネジメント術
タイ人材の採用に成功しても、定着しなければ意味がありません。実は多くの日系企業が直面している問題が「採用はできたのに、すぐに辞めてしまう」という現実です。バンコクで10年以上タイ人材のリクルーティングに携わってきた現地エージェントの情報によると、文化的背景を理解したマネジメントが定着率を大きく左右するといいます。
タイ人従業員が重視するのは「サンスク(楽しい職場環境)」です。日本企業が陥りがちな厳格な上下関係や厳しい指導方法は、タイの文化になじまず、離職の原因となります。代わりに、笑顔で接し、ときには冗談を交えたコミュニケーションを心がけることが効果的です。
また、「メンツ(面子)」を重んじる文化への配慮も不可欠です。公の場での叱責や批判はタブーとされており、フィードバックは必ず個室で1対1で行うべきです。JETROバンコク事務所の調査によれば、この点に配慮している企業はタイ人従業員の定着率が平均で30%高いという結果が出ています。
さらに、タイ人は「クワームサムパン(人間関係)」を非常に重視します。バンコクの人材紹介会社Thai Professional Placementの調査では、離職理由の上位に「上司との関係性」が挙がっています。定期的な食事会やチームビルディング活動を通じて信頼関係を構築することが、長期的な定着につながります。
仏教国であるタイでは宗教行事も大切にされています。重要な仏教行事の日には休暇を取りやすくする配慮や、社内での簡単な儀式の実施も従業員満足度を高めるポイントです。アユタヤにある日系製造業S社では、ソンクラーン(水かけ祭り)の時期に社内イベントを開催することで、従業員のモチベーション向上に成功しています。
報酬面では、単純な給与アップだけでなく、タイ人が重視する福利厚生に注目すべきです。健康保険の家族への拡大、教育支援、交通費補助などは、給与以上に定着率向上に寄与します。パトゥムターニーのある日系電子部品メーカーでは、従業員の子どもへの教育支援制度を導入した結果、管理職クラスの離職率が半減したと報告されています。
キャリアパスの明確化も重要です。タイ人従業員は自身の将来が見えないと不安を感じます。定期的な面談を通じて成長の道筋を示し、適切なトレーニング機会を提供することで、長期的なコミットメントを引き出せます。
最後に、異文化理解研修の実施も効果的です。日本人マネージャーとタイ人スタッフの双方が互いの文化的背景を学ぶ機会を設けることで、コミュニケーションギャップを埋め、より健全な職場環境を構築できます。バンコク日本人商工会議所が提供する異文化理解セミナーなどを活用している企業では、チーム内の摩擦が大幅に減少したという成功事例があります。
タイ人材の定着には、「タイ流」を理解し尊重する姿勢が何より大切です。日本式の働き方を一方的に押し付けるのではなく、両国の良さを融合させた独自の企業文化を創り上げることが、真の意味での人材定着につながるのです。


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